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これまで地熱発電が進まなかった理由①:リードタイムは10年超!ネックとなる「時間」と「コスト」

地熱発電開発の大きな障壁となっているのが、調査開始から発電所建設までのリードタイム。
数十億〜数百億円という莫大な資金もハードルになっている。

調査から建設までに必要な時間は10年超

日本は世界第3位の地熱資源大国であるにもかかわらず、地熱発電の普及は進んでこなかった。その背景には、法制度や社会システム、コストの問題などさまざまな理由がある。

ここでは、大きく五つに分けて説明したい。まずは、事業全体として時間とコストがかかりすぎるという課題である。

地熱発電所をつくるには、さまざまな条件をクリアする必要がある。そのため、長い期間と多額の開発費用がかかる。

具体的な条件としては、次節以降に述べる「探査・掘削の不確実性」「環境規制」「地元との合意形成」「政府の支援策」といった項目が相互に関連しており、それぞれ容易に解決できない課題となっている。

まずは時間の問題から取り上げる。調査の開始から発電所が建設されるまでの期間を「リードタイム」と呼ぶ。地熱発電の場合、このリードタイムが極めて長い。一般的には、日本では10~15年、海外では10年前後とされている。

日本地熱協会は、一般的な内訳を示している。そこでは初期調査が約5年、探査が約2年とされ、調査期間だけでも合計7年かかる。さらに環境アセスメント(環境影響評価)に約3年、そして井戸の掘削や発電所建設などの開発に約3年かかり、合計で13年となる。

ほかの再生可能エネルギーと比べると、最も短い太陽光発電は1~3年、それよりも長い風力発電は8年(今後、環境アセスメントの短縮化により6年と見込まれる)だが、それでも地熱発電より大幅に短い

地熱発電のリードタイムが長い理由は、地熱が地下資源であることだ。詳しくは次節の「探査・掘削の不確実性」で触れるが、地上からの探査だけではわからないことも多く、最終的には掘削してみる必要がある。地熱資源を人体にたとえると、医師が病気の人を手術する際にCTで事前に検査するが、メスを入れてみて初めてわかることがあるというのと似ている。

また、太陽光発電や風力発電の場合、年間の日射量や風況は一定の範囲内なので、事前調査を綿密にすればある程度は予測したとおりに発電することができる。これらは、再現性がある再エネである。

しかし、地熱発電は再現性が低い。地中の状況は場所ごとにまったく異なっているので、1か所でうまくいったからといって、別の場所で同じようにやってうまくいくわけではない。そのため、毎回精密な調査・探査が欠かせない。

投資資金回収に20年以上かかる

次にコストの課題である。出力数千kWから数万kW以上の地熱発電所を建設するには、数十億円から数百億円という莫大な資金が必要となる。また、ここまで述べたようにリードタイムが10年以上にわたるため、投資資金を回収するには調査段階から数えると、20年以上の歳月がかかってしまう。これが経営上の大きな足枷になっている。

コストの見通しは、井戸を掘る掘削費用に大きく影響される。2000メートルの井戸を1本掘る費用は、約5億~10億円とされる。井戸は、最低でも開発の是非を調べるために3本、生産性を予測するのに5本は掘削する必要があるとされる。

日本地熱開発企業協議会によると、出力3万kWの地熱発電設備をつくる際、井戸の掘削費用と蒸気生産設備費用は、建設費全体(約258億円)の39%におよぶ。計画段階では掘る井戸の本数は決まっているが、蒸気の量が少ないといった理由などから、計画した本数以上の井戸を掘らなければならなくなるケースもある。それが経済性に大きな影響を与える。

さらに日本の場合は、地熱資源が急峻な山の中にあることが多く、重機の搬入のためのインフラ建設費が追加でかかる。また、同様の理由で電力系統から遠く離れた場所にあることも多い。

発電所をつくっても電気を送ることができなければ意味がない。そこで送配電会社と交渉し、発電事業者がどの部分までの連系線(電力系統間をつなぐ送電線)を負担するかを決める。その系統への接続費用の上乗せ額は、時には億を超えることもある。

そして接続に関する交渉は、地熱資源を掘り当てて十分な採算が取れることが確定してから始まる。そのため調査段階では、事業全体にいくらのコストがかかるのか把握できない。そうしたことも、コスト面での課題となる。時間が長くコストがかかるうえに、リスクも高い。

開発の初期段階での掘削の成功率は3割程度である。そのため、金融機関からの融資がおりにくい。これまで地熱発電に参入する企業のほとんどが、大きな資本力のある企業に限られていたのは、こうした理由からだ。近年は大企業でも単独での開発ではなく、リスクを低減するために複数の民間企業が資金を出し合って開発するケースが増えてきている。

こうした理由で、これまで地域主体の企業やベンチャー企業の参入はかなりハードルが高かったのが現状である。

出所:「地熱革命が始まる」(プレジデント社)

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