【再エネ最前線!】地熱発電所の安定稼働を目指す現場の仕事とチームの力
2015年より商用運転を開始し、今年で約10年を迎えた「わいた第1地熱発電所」(以下第1発電所)。

安定供給を支えているのは、日々現場で発電設備を監視・操作している発電所本部わいた発電事業所の皆さんの存在です。
今回は、そんな発電所の所長である高倉さん、運転業務のグループ長である藤見さんに加えて、長年の経験をもとに現場を支えていただいている、アドバイザー川副さんを迎え、現場での仕事のリアルや地熱発電ならではの特長、そしてこの仕事のやりがいについて語っていただきました。

わいた発電事業所
所長
第1種ボイラー・タービン主任技術者

わいた発電事業所
運転グループ グループ長
第1種電気主任技術者

技術顧問
元八丁原発電所 副所長
現場の「今」を支える、地熱発電所の仕事
――まずは、皆さんの担当業務について教えてください。
高倉:私は、わいた発電事業所(第1発電所・わいた第2地熱発電所(以下第2発電所))の所長ですので一言でいえば発電所の運営全般の方針を考えています。
発電所を安定して運転するためには、大きく分けて3つのことをしなければいけません。
1つ目は発電所をトラブルなく運転すること、2つ目は機械が故障した時の早急な修理、3つ目はトラブル、機械故障を未然に防止するための対策を考えること。
この3つをしっかりできるように、発電所メンバーにどんな仕事をしてもらうかを考えることが私の担当業務です。
藤見:私は、高倉さんがおっしゃっていた、「1.発電所をトラブルなく運転すること」「2.トラブル、機械故障を未然に防止するための対策を考えること」を実現するために、運転操作や保守に関するマニュアルの作成や、第2発電所の電気主任技術者として、新設設備の確認・検査を担当しています。
作業マニュアルについては、第1発電所での10年間の運転実績をまとめ、整理することで新入社員ができるだけ早く現場に馴染めるよう工夫を重ねています。

また第2発電所では、専門の電気設備に加え、新しい機械設備についても、他の発電所で豊富な経験をお持ちの高倉さんや川副さん、またボイラー・タービン主任技術者の方にアドバイスをもらいながら、安全に運転が開始できるよう準備を進めています。
川副:私は八丁原発電所での勤務を含めおよそ40年近く、地熱発電所の仕事に携わってきました。その経験を評価して頂き、現在は技術関係のコンサルタントとして関わらせていただいています。
第1発電所は10年以上稼働していますが、地熱発電に詳しい専門家が不足しているのが現状です。
そこで、私の役割として、地熱流体が存在する地熱貯留層の仕組みや状況および地熱流体(=蒸気)を適切に地上へ運ぶための坑井の運用方法、さらに地上でその蒸気を最大限に活かす発電設備の開発や運営について、これまでの知見を踏まえてアドバイスをしています。こうした取り組みを通して、発電所の運営をより良い形にしていければと思っています。
地熱発電の”おもしろさ”と”むずかしさ”
――他の再エネと比較して、地熱発電の現場ならではの特徴や難しさ、またわいた地熱発電所の特徴(良い面悪い面)について伺いました。
藤見:私は、電気主任技術者として、太陽光や水力、風力などの再エネに携わりましたが、地熱が一番面白いんじゃないかと思って転職してきました。
例えば太陽光はメガソーラーなど規模は壮大ですけど、稼働してしまえば後は天候任せ、技術的に携わることは少ないですし、風力も規模は拡大し、技術も進歩してきていますが、騒音などの問題をかかえています。水力は自然エネルギーでタービンを回して発電をするという仕組みは地熱と似ていますが、この日本では新規開発は難しくなっています。この点、地熱は多くのポテンシャルがあるとされており、天候にも左右されない「マグマの力」というところが神秘的で魅力的ですね。
今思い返してみると、子どもの頃「マグマ大使」という実写特番があったので、そこからマグマの力強いイメージが潜在的にあったのかもしれません(笑)

高倉:ありましたね、私も観ていましたよ。(笑)確かに地熱には力強いというイメージもありますが、相手は地下なので、ポテンシャルは実際に井戸を掘ってみないとわかりません。
それに井戸からは蒸気と熱水が出てきますが、熱水は地下に戻さなければならないので、多方面での推測とバランスの見極めが必要で、とても難しい発電方式だと思います。
以前バイオマス発電に携わっていましたが、その場合は燃料となるペレットの量などが決まっているので、自然エネルギーと比べ扱いやすさはありました。
ただ一方で、ポテンシャルの高い井戸が当たれば、燃料代はかからない、まさに自然のめぐみを直接活かせる、という点は大きな魅力だと思います。
あと実は、川副さんは八丁原発電所に勤務していた頃の上司でして(笑)。地熱業界は狭い分、人のつながりが深いのも面白さのひとつだと思います。

川副:そんな時代もありましたね。こうやってまた同じフィールドでお会いできて嬉しいです。
私も、地熱に40年近く関わる中で実感しているのは、地熱発電の難しさと奥深さです。相手は自然の蒸気ですから、火力発電のように圧力や蒸気量をコントロールできるわけではありません。最適な運転ポイントを見つけるのは容易ではなく、地上で得られるさまざまなデータから地下の状態を推測し、長期的に安定する出力条件を探っていく必要があります。ただ、その判断が本当に正しいかどうかは、すぐには分からない。だからこそ挑戦しがいがあり、面白くて魅力的だと感じています。
必要なデータを採取して、きちんと評価していけば、半永久的に蒸気を取り出すことができます。地熱発電は他の再エネと違い、季節や昼夜に左右されず発電できるため、安定した電源としてインフラを支える上でも大変重要な存在だと思います。
日々の業務で大切にしていること、心がけていること
――稼働から10年を迎えたわいた第1発電所。そして2026年3月には、わいた第2発電所が新たに運開します。
日々の安定稼働を支えながら次のステージに挑む――その日々の仕事に向き合う考え方や、業務において大切にしていることを伺いました。
藤見:やはり、人間は間違うものだし、ミスを犯す、機械もいつかは壊れるものです。だからこそ、どう対策を講じていくかを常に考えることが大切なんだと思います。

私自身、長く電気の分野に携わるなかで危険な局面に直面することや、ときにミスをしてしまうこともありました。頭では理解していても、行動が伴わないこともあるんですよね。それでも工夫や対策によってそのリスクを少しでも減らすことはできるはずです。何より大切なのは「安全第一」ですので、社員同士助け合いながら、しっかりと対策を練っていきたいと感じています。
高倉:私は、仕事は「楽しむもの」だと考えています。そのためにはしっかりとコミュニケーションが取れる環境、個々の意見を安心してアウトプットできる環境、そして困ったときには互いに助け合える環境をつくっていきたいと思っています。これまで所長や副所長を経験してきましたが、何よりも避けたいのは、社員のメンタルが疲弊してしまうことです。そうならないように、安心して健やかに働ける職場環境づくりには特に取り組んで行きたいと考えています。
川副:私が最も大切にしていることは、しっかり状況を見極めること、そして課題に直面したときに「どうしたら解決できるか」をしっかり考えることです。

長年地熱発電に携わるなかで、国内外の多くの技術者とコミュニケーションを取ってきましたが、安定稼働している発電所の技術者は、「1kWh」を削り出すための検討を常に行っています。地下の蒸気量が低下しても、地上設備の工夫次第で、適正な対策を講じることができます。そういった「課題解決のためにできること」の探究を怠らないことを今後も行っていきたいですね。
特に、わいた地区の場合、2026年3月に運開予定の第2発電所が運開すると、現状の3.5倍の規模になります。その分監理の対象となる設備や見るべきデータ量も増えますよね。だからこそ、地下の担当、地上の担当がしっかりと連携をとり、必要なデータや状況を様々な視点で捉え、課題の早期発見につなげることが大事だと考えています。
地熱発電の挑戦と可能性 ― 世界と地域・現場の視点から
――脱炭素社会を目指すこれからの世界では、地熱発電の展開に向け様々な新技術の開発が進んでいます。一方で日本では、地熱開発の加速化のため、第7次エネルギー基本計画にて政府が地域の関係者と事業者との調整を積極的に支援する「地熱フロンティア・プロジェクト」の方針が公表されました。今回は、日々現場で技術と安全に向き合うメンバーの声を通して、地熱発電が直面する課題や技術的な挑戦、そしてそれを克服するための工夫や取り組みについて語ってもらいました。
川副:世界とは壮大なテーマですね(笑)そもそも「地熱」って俯瞰してみると、様々な利用方法がありますよね。温泉もそうですし、暖房でも使用している場面も多く見かけます。もちろん電気に変えれば遠くに運ぶなど様々な使い方ができますが、発電と熱利用はセットで検討していくことが必要だと思います。世界的には発電ばかりに目が行きがちですが、カスケード利用などで地熱を最大限に活かす考え方を検討すべきだと思います。
そういった視点では、わいた地区ではすでにわいた会とふるさと熱電が地熱を活用した農業や給湯のための熱交換器の検討など、住民と協力してその志向を具体化していますよね。

それぞれの国で違いはあると思いますが、この「わいたモデル」の取り組みは、一つの成功事例として世界に発信していくべきだと思っています。
藤見:川副さん、さすがですね(笑)私は世界への発信とは異なる視点となるのですが、地元が広島県なので、こういった地域共生型の「わいたモデル」の考え方が広島県でも広がったら良いなと思います。 広島県では地熱のポテンシャルは少ないんですけど、地産地消に積極志向なので、発電方式の新技術や熱のカスケード利用が展開され、小さなエネルギーでも最大限に活用できる仕組みが導入されれば、広島県での地熱展開も可能性としてはあるんじゃないかと思います。将来は地元に技術を持ち帰って、地域の活性化につなげていきたいですね。
高倉:そうですね。私は他の発電方式との比較や、これまでの取り組みの観点からお話ししますと、やはり自然エネルギーという性格上、地熱発電は火力や原子力と比べて発電規模が小さく、だいたい10分の1程度にとどまります。そのため、収益性に課題があるのは事実です。ただ、FITなど経済的に後押しする仕組みが定着し、安定した運転ができるようになれば、その課題はかなり緩和されてきていると思います。
一方で、安定運転を続けていくには、シリカによるスケールの付着や硫化水素による腐食といった、いわば地熱発電の宿命ともいえる技術的な課題があります。さらに、発電所の数を増やしていこうとすると、そうした課題に対応できる経験や知識を持つ技術者が不足している、という現実もあるんですね。
今回、私たちシニアがこうしてインタビューを受けているのは、そうした技術者不足の状況が背景にあるからだと思います。やはり若い技術者の育成がこれからの地熱発電の発展には欠かせませんので、私たちとしても、その成長を後押ししていけるように取り組んでいきたいと考えています。
これからの目標やわいた地熱発電所への思い

安定稼働と新たな開発に挑むわいた地熱発電所。現場で日々奮闘する運転グループのメンバーに、これからの目標や発電所への思いを語っていただきます。
高倉:第2発電所が2026年の3月に運開となります。その後も同地区でのさらなる開発を目指していくとなると、発電所を安定して運転するためのノウハウがまだまだ不足していると感じています。
そのため、目標は”誰でも簡単に運転できる発電所”にすることですね。難しい道のりだと思いますが、これから発電所メンバーも増えると思いますので、みんなが楽しく働ける職場にしていきたいです。

藤見:私は一番すべき仕事は、“次の時代を担う人材を育てること”だと思っています。そのために私の経験してきたことを全部伝えるつもりで発電所メンバーに接していきたいですね。
川副:私もお二人のお考えと似ていますが、第1発電所の安定稼働、さらには第2発電所の運開となると、管理すべき項目が増え、それらの仕組みづくりがとても大変だと思っています。一方で、管理する技術者は限られていて、平均年齢が高いのが現状です。そのため、若い技術者へノウハウをお伝えすること、効率的で効果的な運用、管理の仕組みづくりをおこなうこと、そしてその仕組みの定着を図ることが、私達の使命だと思っています。
わいた第1発電所の10年、そして第2発電所の新たな挑戦。

現場の一人ひとりが安全と安定稼働を第一に、挑戦と改善を積み重ねてきたからこそ、地域に根ざした電源としての信頼が築かれてきました。
そしてその歩みを支えるのは、技術や設備だけではなく、人から人へ受け継がれていく知識と経験です。
ベテランの力を次世代へとつなぎ、若手が成長し、さらに次の担い手へと受け渡していく――。
その循環こそが、わいた地熱発電所の最大の財産であり、未来を切り拓く原動力です。
地域とともに歩みながら、人と技術を育て続ける挑戦は、これからも続いていきます。