これまで地熱発電が進まなかった理由④:「温泉大国」ならではの課題―自治体や住民との合意形成―
景観や自然環境への配慮など、地熱開発には乗り越えるべき課題がたくさんある。特に温泉地での地元との合意形成は、大きなハードルとなるケースがある。
温泉大国ならではの困難が多い
地熱開発は、地元の合意が得られず調整が難航するケースもある。特に温泉事業者は、地熱発電開発により、枯渇や温度低下など、温泉に影響があれば一大事である。事業者側は、科学的調査に基づいた説明を行うものの、温泉への影響がまったくないと証明するのは容易ではない。
日本は世界屈指の温泉大国である。環境省自然環境局のデータによれば、その温泉地の数は約2900か所、源泉数は約2万8000か所とされる(令和3年度温泉利用状況)。
一般的に、地熱発電が必要とする熱源(地熱貯留層)と、温泉の元となる温泉帯水層とは深さが異なる。温泉の掘削では、火山帯では深度10~500メートル程度、非火山帯では300~1000メートル前後となっている。これに対して、一定規模以上の地熱発電の深度はおよそ1000~3000メートルである。
地熱資源の調査では、温泉の出る帯水層や地下水脈に影響をおよぼさない場所が選定される。それでも、地下がどうなっているかは最終的には掘ってみなければわからないため、周辺の温泉や地下水に影響が出ないかについて、丁寧にモニタリングし続ける必要がある。
掘削については、地下資源の活用について定めた温泉法のもとで、最終的には都道府県知事の許認可を得ることになっている。温泉法のガイドラインでは、温泉と地熱発電の共存のため、モニタリングの実施や情報公開と共有、協議会などの設置による合意形成の必要性などが記載されている。
ガイドラインは、「地熱開発加速化プラン」(2021年)を受けて改正され、環境共生型の地熱発電を推進する方針が示された。それでも、各都道府県知事によって判断基準がまちまちであるという課題は変わらず、発電事業者は改善を訴えている。
出所:「地熱革命が始まる」(プレジデント社)