これからの地熱発電は「地域共生型」へ
〝地熱大国〞の日本で地熱を電源として生かしきれていない背景には、古くから根付く温泉文化の存在がある。その障壁を乗り越え、地域共生を模索する地熱発電と地域の取り組みを紹介する。
地熱発電に欠かせない「地域」との関わり
地熱発電では、土地の地下資源を使うため、地域との関わりが欠かせない。地熱発電の成否は、地権者と地熱事業者がどんな関係性を築くことができるかにかかっているといっても過言ではない。日本は、世界第3位の地熱資源を保有する国でありながら、残念ながら十分にその宝を活用してきたとは言い難い。その背景には、古くから根付く温泉文化の存在がある。
日本全国には温泉街が3000か所、温泉の井戸の数も3万本あるといわれる。国内の地熱資源の多くは温泉地やその隣接地に集中しており、「温泉が枯渇する」といった懸念から温泉事業者の反対が生じやすかった。土地に潜在能力があっても、簡単には発電所を建設できなかったのである。
仮に井戸を掘ることに同意を得られたとしても、熱源から数キロ離れた土地しか入手できないなど、地熱を掘り当てる確率の低さの要因にもなっている。温泉と地熱では井戸の深さは大きく違う。温泉では地下100メートルほどの浅い部分、地熱では1000~2000メートルと深くまで掘るが、熱源の元となるマグマ溜まりは共通している場合が多い。つまり、温泉街の中心で掘ることができれば、地熱を掘り当てられる可能性も上がるということだ。
温泉を営んできた事業者にとって、大事な熱源を持つ土地を、簡単によそ者に譲ることはできない。温泉街は、長年、温泉事業者によって守られてきた場所なのである。
地元住民との共生型事業へ
一方、海外に目を転じれば、政策的なアプローチにより、飛躍的に地熱開発が進んだ国もある。ニュージーランドでは、地熱資源を含む土地の多くを先住民であるマオリ族が所有している。マオリと開発事業者は長い間、対立関係にあった。
ところが、1991年に制定された「資源管理法」により、地熱事業者はマオリと協力関係を築く義務が定められる。マオリの間には、複数の先住民が所有する土地を一括管理して利用する「マオリ信託」と呼ばれるしくみがあり、これが生かされた。信託が100%出資の新たな発電会社をつくり、この会社が地熱事業者とパートナーを組んで合弁事業を行う。両者で友好的な関係を築き、ともに事業を進めるのだ。このモデルが増えたことで、ニュージーランドの地熱開発は飛躍的に進み、発電容量は30年で3倍近くになった。
日本の温泉事業者とマオリを同じには考えられないが、水資源や地熱資源などの所有権を彼らのものとして認めながら、共に地熱発電事業を進める共生型のモデルが求められている。日本が「マオリ信託」から学ぶ点は多いだろう。
地方創生と地熱発電はじつは相性がいい
現在、日本における地熱発電は規模でいうと三つに分類できる。
一つは、松川地熱発電所に代表される数万kWの発電容量を持つ大規模発電所。NEDO(経産省の外郭団体)が、1990年代から地熱の有望地域を探し促進事業を進めてきた結果、すでに有望地は30年ほど前から開発に着手している。そのため大規模の発電所を建てることができる土地は、国内ではすでに限られているという。
二つ目が、わいた温泉郷や中尾地熱発電所のような2000~5000kWほどのメガワット級の発電所。複数の井戸を掘らずとも、熱量のある土地では、1~2本の生産井である程度の規模の発電量を得られるフラッシュ方式が採用できる。
三つ目が、圧力の弱い蒸気や、温泉の井戸で地熱発電をするような、バイナリー方式による50kW前後の小規模発電所だ。
これら三つが共存しているが、これから日本で地熱発電を増やすには、温泉街に近い場所に、メガワット級の地熱発電所を数多く建設していくことが一つの道ではないかと、ふるさと熱電株式会社の赤石和幸社長は話す。
「これまでの地熱開発は、全資産担保型といって、大手事業者が土地の所有権も使用権もすべて買い取ったうえで開発するパターンがほとんどでした。地域住民にすれば、土地を売って終わりです。発電がうまくいってもその後、恩恵が受けられない。それでは熱源のあるいい土地が手に入らないだけでなく、住民の協力が得られにくいわけです。地元の方々はその土地や温泉を大事に守ってきた人たちで、土地への想いはお金だけでは解決できません。これからの地熱開発では、そうした権益を地元に残しながら共に活用していく、地域共生型のモデルが必要になります」
実際に、まだ数は多くないが、国内でも少しずつ、こうした〝地域共生型〞で地熱開発を進めるケースが出てきている。住民や温泉組合と事業者がタッグを組み、売電収益を分け合う。もしくは地域住民が主体で事業者となり、開発会社に業務委託をする。
今後、地熱資源を活用していくことを考えれば、その土地に暮らす人や、地域の未来を抜きにしては語れない。地方創生と地熱発電は、じつは蜜月関係になりえるのだ。
日本初!住民全30戸が出資し、地域のために立ち上げた発電所
―わいた温泉郷(熊本県阿蘇郡小国町)―
出所:「地熱革命が始まる」(プレジデント社)