Q.日本の地熱発電の現状は?
A.日本の地熱資源量は第3位だが、十分に潜在能力を生かしきれていない。

日本はポテンシャルを生かしきれていない
世界有数の火山地帯として知られる日本は、アメリカ、インドネシアに次ぐ世界第3位の地熱資源量を有する。一方、日本の地熱発電設備容量は世界第10位である。再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)の開始以来、新たな地熱発電開発プロジェクトは増加傾向にあるものの、その地熱ポテンシャルを生かしているとは言い難い状況だ。
地熱発電推進の前に立ちはだかっているのは、開発の過程に存在するさまざまな課題である。
地熱発電所の建設には初期調査から運用までに10年以上の時間を要する。地表から熱源の位置を正確に知るのは難しく、実際に掘ってみないと運用に値する熱源を有するかがわからない。さらに、候補地の多くは温泉街の周辺や国立・国定公園内にあり、利権者との交渉、法で定められた要件のクリア、自然への影響アセスメントなどにも時間がかかる。

政府目標の発電量は現状の3倍以上
日本政府はカーボンニュートラルの達成に向け、2030年度までに温室効果ガスを、2013年度比で46%削減する目標を掲げている。この目標達成には、省エネルギーの徹底と再生可能エネルギーの拡大が必要だ。
2030年度の電力供給は約9300億~9400億kWhと見込まれている。エネルギー利用の効率化により2019年度の1兆240億kWhから10%近く減少させるとともに、再生可能エネルギーの導入を最優先とした火力発電依存からの脱却を図る想定である。
日本政府による2030年度までの再生可能エネルギーの目標導入量は3130億kWhで、電源構成の36~38%を目指している。
中東やロシアなど政情が不安定な国に化石燃料を依存している状況から脱し、エネルギー安定供給における地政学的リスクを少しでも減らしたい日本にとって、気候、季節、時間を問わず国内で安定的に自給できる地熱発電の普及は急務といえる。
現在、地熱発電導入量は太陽光などほかの再生可能エネルギーと比較すると小さいが、2030年にかけて大きく伸びる想定である。発電総電力量に占める地熱発電の割合は、2030年には1.0%と現在の3倍以上に増加すると見込まれている。
地熱発電単体で考えた開発シナリオにおいても、2030年までの地熱発電出力累計は右肩上がりで、2017年比で2~3倍の出力累計となる約150万kWを目指している。国立公園内の規制緩和、温泉街と協業した地域密着型地熱発電所の建設、大学・研究機関との協働による高効率な発電技術・掘削技術の開発、各種補助金などの手厚い支援を通じて、産官学が一体となって地熱発電導入量の目標達成に向けて動いている。

出所:「地熱革命が始まる」(プレジデント社)
日本の地熱発電所の数
日本の地熱発電所の多くは、九州や東北に集中しています。2024年4月現在の、フラッシュ式(SF/DF)地熱発電所(発電端出力1,000kW以上)は下記一覧の通りです。
発電所名 | 所在地 | 発電 | 蒸気・熱水供給 | 設備容量 (kW) | 発電方式 | 運転開始日 | FIT制度の活用 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
森発電所 | 北海道森町 | 北海道電力㈱ | 北海道電力㈱ | 25,000 | DF | 1982.11.26 | |
大沼地熱発電所 | 秋田県鹿角市 | 三菱マテリアル㈱ | 三菱マテリアル㈱ | 10,000 | SF | 1974.6.17 | |
澄川地熱発電所 | 秋田県鹿角市 | 東北自然エネルギー㈱ | 三菱マテリアル㈱ | 50,000 | SF | 1995.3.2 | |
松尾八幡平地熱発電所 | 岩手県八幡平市 | 岩手地熱㈱ | 岩手地熱㈱ | 7,499 | SF | 2019.1.29 | ◯ |
松川地熱発電所 | 岩手県八幡平市 | 東北自然エネルギー㈱ | 東北自然エネルギー㈱ | 設備更新中 | DS | 1966.10.8 | |
安比地熱発電所 | 岩手県八幡平市 | 安比地熱㈱ | 安比地熱㈱ | 14,900 | SF | 2024.3.1 | ◯ |
葛根田地熱発電所 | 岩手県雫石町 | 東北自然エネルギー㈱ | 東北自然エネルギー㈱ | 30,000 | SF | 1996.3.1 | |
上の岱地熱発電所 | 秋田県湯沢市 | 東北自然エネルギー㈱ | 東北自然エネルギー㈱ | 28,800 | SF | 1994.3.4 | |
山葵沢地熱発電所 | 秋田県湯沢市 | 湯沢地熱㈱ | 湯沢地熱㈱ | 46,199 | DF | 2019.5.20 | ◯ |
鬼首地熱発電所 | 宮城県大崎市 | 電源開発㈱ | 電源開発㈱ | 14,900 | SF | 2023.4.2 | ◯ |
柳津西山地熱発電所 | 福島県柳津町 | 東北自然エネルギー㈱ | 奥会津地熱㈱ | 30,000 | SF | 1995.5.25 | |
奥飛騨温泉郷 中尾地熱発電所 | 岐阜県高山市 | 中尾地熱発電㈱ | 中尾地熱発電㈱ | 2,400 | DF | 2022.12.1 | ◯ |
杉乃井地熱発電所 | 大分県別府市 | ㈱杉乃井ホテル | ㈱杉乃井ホテル | 1,900 | SF | 1981.3.6 | |
大岳発電所 | 大分県九重町 | 九電みらいエナジー㈱ | 九電みらいエナジー㈱ | 14,500 | DF | 2020.10.5 | ◯ |
八丁原地熱発電所(1号) | 大分県九重町 | 九電みらいエナジー㈱ | 九電みらいエナジー㈱ | 55,000 | DF | 1977.6.24 | |
八丁原地熱発電所(2号) | 大分県九重町 | 九電みらいエナジー㈱ | 九電みらいエナジー㈱ | 55,000 | DF | 1990.6.22 | |
滝上発電所 | 大分県九重町 | 九電みらいエナジー㈱ | 出光大分地熱㈱ | 27,500 | SF | 1996.11.1 | |
わいた地熱発電所 | 熊本県小国町 | (同)わいた会 | (同)わいた会 | 1,995 | SF | 2015.6.16 | ◯ |
小国まちおこしエネルギー地熱発電所 | 熊本県小国町 | ㈱町おこしエネルギー | ㈱町おこしエネルギー | 4,990 | SF | 2024.3.1 | ◯ |
南阿蘇湯の谷地熱発電所 | 熊本県南阿蘇村 | ㈱南阿蘇湯の谷地熱 | ㈱南阿蘇湯の谷地熱 | 2,168 | SF | 2023.3.3 | ◯ |
大霧発電所 | 鹿児島県霧島市 | 九電みらいエナジー㈱ | 日鉄鉱業㈱ | 30,000 | SF | 1996.3.1 | |
山川発電所 | 鹿児島県指宿市 | 九電みらいエナジー㈱ | 九電みらいエナジー㈱ | 30,000 | SF | 1995.3.1 |
資料:地熱発電の現状と動向火力原子力発電技術協会(2022)をもとに加筆・修正しています。
SF:シングルフラッシュ DF:ダブルフラッシュ